なぜ日本の製造業ではマーケの成果が“存在しても測れない”のか──営業文化とAIが変えるKPI設計

なぜ日本の製造業ではマーケの成果が“存在しても測れない”のか──営業文化とAIが変えるKPI設計

BtoBMarketingデジタルツインManufacturingAI活用

製造業のBtoBマーケティングに携わっていると、
「うちのマーケは案件を生んでいない」「展示会やメルマガは売上につながらない」
といった言葉を耳にすることが多い。

しかし本当にそうだろうか。

実際には、成果は存在しているのに、観測できていないだけ。
日本企業特有の営業文化と評価構造の中で、
マーケの成果が“蒸発”しているのが実情だ。

本記事では、その構造的な理由を分解し、
AI時代における「見えない貢献を可視化する」KPI設計の方向性を考える。


🧱 1. 成果が営業経由で“蒸発”している構造

欧米のBtoB企業では、
Marketing Qualified Lead(MQL) → Sales Qualified Lead(SQL)
という共通言語で営業とマーケが連携している。
一方、日本企業ではこの仕組みが未整備なため、
「名刺を営業に渡すだけ」で終わってしまうことが多い。

たとえば、メルマガを読んだ購買担当が「少し話を聞きたい」と思い、
既存の営業担当に直接電話する
結果、その案件は“営業が発掘した”ことになり、
マーケティングの成果としては記録されない。

つまり、

マーケが火をつけても、CRM上では存在しない。

この構造こそ、マーケのKPIが設定できない最大の理由だ。


⚙️ 2. KPIが「入力しないと測れない」設計になっている

多くの日本企業では、CRMやMAを導入しても、
**「営業が入力しないと成果が見えない」**前提の設計になっている。

しかし営業現場では、

  • 商談記録の入力に時間をかけられない
  • メール・電話・訪問が主な接点
  • “活動記録”より“成果”が評価される

という現実がある。
結果として、データ入力は後回しになり、
KPIの基礎データがそもそも欠落する。

マーケ側も、入力されないものは分析できないため、

「展示会来場者数」「メルマガ開封率」「資料DL件数」
といった**“計測しやすいが、成果と直結しない指標”**に戻ってしまう。


🧠 3. 「受注主義」の文化がマーケを覆い隠す

さらに深刻なのは、文化的な問題だ。

多くの日本企業では、
「売上を作るのは営業」「マーケは補助」
という価値観が根強い。

この文化の下では、

  • 商談の起点がマーケ接点でも「営業が決めた」で完結
  • マーケが数値で貢献を示しても「受注したのは営業」になる
  • 受注単位でしか評価されないため、中間貢献が消える

という構造が固定化される。

結果的に、
マーケの役割が“案件を生む”ではなく、“販促を支援する”に矮小化されてしまう。


📊 4. 「見えない貢献」をKPI化する3つの層

とはいえ、完全に打つ手がないわけではない。
マーケが可視化できるKPIは、次の3階層で設計できる。

指標例 特徴
① 行動指標 メルマガ開封率、サイト閲覧率、再訪問率 デジタル接点の可視化
② 連携指標 営業経由問合せ件数、営業接点ログ件数 マーケ接点→営業接点の橋渡し
③ 成果指標 「営業経由だがマーケ接点あり」案件の割合 MA+CRMの統合で初期接点をトレース

特に②と③が重要だ。
営業を排除するのではなく、営業を可視化の入口に変える設計がポイントになる。


🤖 5. AIが可能にする“検出型KPI”という発想

AIの登場で、KPIの定義そのものを見直せる時代になった。
これまで「入力しなければ測れなかった」ものを、
AIが自動的に検知できるようになりつつある。

たとえば:

  • 営業メールや商談の音声ログをAIが解析し、「起点となった接触」を特定
  • 顧客単位で「マーケ接触後に営業発生」した確率を算出
  • CRM内で自動的に「営業起点/マーケ起点」をタグ付け

これにより、
マーケの貢献が「記録されなかったから無い」ではなく、
**「AIが検出して可視化する」**方向に進む。

KPIも“入力依存”から“検出依存”へ。
つまり、マーケは数字を作るのではなく、数字を見つけ出す仕事になる。


🔄 6. 日本型の答え:「人を介した案件化」を前提に設計する

欧米のように、
マーケ→インサイドセールス→営業
というリニアな流れを前提にKPIを設計しても、
日本の製造業ではうまく機能しない。

なぜなら、
「既存の営業経由で連絡する」のが自然な文化だから。

したがって、

“営業を通じてデジタル接点が案件化する”
という現実を前提に、KPIを再設計する必要がある。

理想的な流れはこうだ。

メルマガ or Web閲覧 → 担当営業に連絡 → 商談化 → CRM上でマーケ接点タグ付け

つまり、マーケが起点を作り、営業が変換し、AIが記録する。
この3者連携が日本型BtoBマーケの完成形だ。


🌱 7. まとめ:「計測できない」から「検出できる」へ

日本の製造業において、マーケが案件を生めていないのではない。
マーケの貢献が、観測されていないだけだ。

  • データ構造が断絶している
  • KPIが入力依存で限界を迎えている
  • 文化的に“営業が主役”で可視化されない

この三重の壁を超えるには、
AIによる非構造データ解析と、営業を可視化の入口にする設計が不可欠だ。

これからのKPIは、
「どれだけ資料をDLさせたか」ではなく、

「どれだけ営業が動いた裏に、マーケの火種があったか」
を測る指標へと進化していく。


✍️ おわりに:マーケの価値を“見える化”する時代へ

マーケの目的は案件を生むこと。
しかし、それを「測る」方法は長らく欠落していた。

AI時代の到来は、その暗闇に光を当てる。
営業文化を否定するのではなく、
人を介した案件化をデジタルで検出することで、
日本企業らしいマーケティングの進化が始まる。

それは、
「マーケの努力をようやく数字で語れる時代」への第一歩でもある。