
製造業BtoBに「ザ・モデル」は通用するのか?SaaS前提モデルの限界と再設計のヒント
BtoBマーケティングの世界でよく耳にする「ザ・モデル(The Model)」。
リード獲得からクロージング、さらにカスタマーサクセスまでを分業でつなぐ、
SaaS企業の急成長を支えたフレームワークです。
しかし、この「ザ・モデル」を製造業BtoBにそのまま当てはめようとすると、
うまくいかないケースがほとんどです。
なぜなら、製造業とSaaSでは「ビジネス構造」も「購買プロセス」も根本的に異なるからです。
この記事では、
- ザ・モデルの基本構造
- 製造業とのズレ
- それでも活かせる部分
- 製造業BtoB向けの再設計例
をわかりやすく整理していきます。
🔷 「ザ・モデル」とは何か
まず、前提として「ザ・モデル」は、
主にBtoB SaaS企業がマーケティングと営業を科学的に連携させるための仕組みです。
一般的な構成は以下の4ステージに分かれます。
| ステージ | 役割 | 主なKPI |
|---|---|---|
| Marketing | 潜在顧客の獲得(リードジェネレーション) | MQL(Marketing Qualified Lead)数 |
| Inside Sales | リードの選別・育成(ナーチャリング) | SQL(Sales Qualified Lead)率 |
| Field Sales | 商談化・クロージング | 成約率 ARR(年次収益) |
| Customer Success | 継続利用・アップセル | LTV 解約率 |
このモデルの本質は、
**「ファネルの各段階を分業して最適化すること」**にあります。
マーケティングはリードを大量に獲得し、
インサイドセールスは確度を高めてからフィールドセールスに引き渡し、
カスタマーサクセスが継続利用を支える。
定量管理がしやすく、スケールしやすい。
それがSaaS型ビジネスにおける「ザ・モデル」の強みです。
🔶 製造業BtoBとのギャップ
では、製造業ではなぜ「ザ・モデル」がそのまま通用しないのでしょうか。
理由は大きく3つあります。
① 契約構造がまったく違う
SaaSは月額課金や年間契約などのサブスクリプション型。
一度導入すれば毎月売上が積み上がり、カスタマーサクセスがLTVに直結します。
一方、製造業の取引は一品受注・都度契約型が多く、
「継続課金」という構造自体が存在しません。
たとえば、
一度機械を納入したら、次の受注は数年後かもしれない。
それでも関係維持が重要になるのが製造業の特徴です。
つまり、製造業では「サクセス」というよりも、
関係維持と次案件創出のためのアフターフォローが中心になります。
② リードの量が少ない
SaaS企業はWeb広告やホワイトペーパーで大量のリードを集められます。
しかし製造業では、展示会や紹介、既存取引など限定的な母集団が中心。
このため、MAツールを導入しても「ナーチャリングの自動化」で成果を出すのは難しい。
SaaSのように「メール配信を週3回」といった運用よりも、
「1社1社に合わせた情報提供」の方が効果的です。
③ 購買プロセスが長く、技術的
製造業の購買プロセスは、
検討 → 試作 → 評価 → 稟議 → 量産化
と段階が多く、決定までに半年〜数年かかることもあります。
この間、営業だけでなく、技術・設計・品質など
複数部門が関わるのが普通です。
SaaSのように「インサイド→フィールド→CS」ときれいに分けるよりも、
**技術と営業が一体化した“チーム営業”**の方が実態に合っています。
🔷 製造業でも使える「ザ・モデル」の要素
とはいえ、「ザ・モデル」のすべてが使えないわけではありません。
製造業でも有効な部分は確実にあります。
1. マーケティングの定量化
展示会・Webサイト・動画などのリード獲得施策を
「どのチャネルから、どれだけ案件につながったか」で可視化するのは有効です。
特に、「MQL(マーケティング合格リード)」という考え方は製造業にも役立ちます。
たとえば:
- 名刺交換だけではなく、
「資料請求」「問い合わせ」「技術的相談」など行動ベースでMQLを定義 - 展示会後のフォロー対象をスコアリングで優先度づけ
このように「営業が追う価値のあるリード」を見極める指標としては使えます。
2. インサイドセールスの考え方
製造業では“分業”としてのインサイドセールスは難しくても、
「案件化前のコミュニケーション部隊」としての役割は価値があります。
たとえば:
- 技術的な質問を受け付けるチャットやフォーム対応
- カタログ送付後のフォロー電話
- Webセミナー後のアンケート返信対応
これらは営業ではなく、技術理解のあるマーケ担当が担うことで、
営業リソースを効率化できます。
3. カスタマーサクセスの再定義
SaaSでは「解約防止・アップセル」が中心ですが、
製造業では「導入支援・定期フォロー・改善提案」に置き換えるのが現実的です。
つまり、CS=納入後の技術フォロー部門というイメージです。
- 導入後の立ち上げ支援
- 定期的な保守・メンテナンス
- 次期モデルや新製品の案内
これらを「サクセス」として整理すれば、
顧客関係維持の仕組みとして機能します。
🔶 製造業向けに再設計した「ハイブリッド・モデル」
では実際、製造業BtoBではどう再設計すべきでしょうか。
現実的なのは、下記のような“ハイブリッドモデル”です。
リード獲得(展示会・Web・紹介)
↓
案件化支援(技術課題ヒアリング、簡易提案)
↓
営業同行・見積・試作
↓
導入・立ち上げ支援
↓
定期フォロー・改善提案
この流れに「ザ・モデル」の要素を当てはめると次のようになります。
| フェーズ | SaaSでのKPI | 製造業でのKPI |
|---|---|---|
| マーケティング | MQL数 CPL | 引き合い数 展示会フォロー率 |
| インサイド | SQL率 案件化率 | 技術相談対応数 案件化率 |
| フィールド | 成約率 ARR | 見積提出数 成約率 |
| サクセス | LTV 解約率 | フォロー訪問件数 次期案件創出率 |
このように、分業よりも連携重視の体制が現実的です。
🔷 製造業版「KPI」の考え方
ザ・モデルでは「リード→商談→成約→LTV」の定量管理が中心ですが、
製造業ではKPIの置き方を調整する必要があります。
| フェーズ | SaaSでのKPI | 製造業でのKPI |
|---|---|---|
| マーケティング | MQL数 CPL | 引き合い数 展示会フォロー率 |
| インサイド | SQL率 案件化率 | 技術相談対応数 案件化率 |
| フィールド | 成約率 ARR | 見積提出数 成約率 |
| サクセス | LTV 解約率 | フォロー訪問件数 次期案件創出率 |
「継続課金」を前提にした数値よりも、
関係性の深度や再商談の発生率を追う方が現実的です。
🔶 ザ・モデルの“精神”を残しつつ再設計する
製造業では、「ザ・モデル」をそのまま輸入するのではなく、
思想レベルで取り入れるのがポイントです。
つまり、「各フェーズを明確化し、KPIで連携する」という基本思想だけを残し、
中身を製造業向けに置き換える。
- リードを“名刺”から“情報資産”として扱う
- 営業と技術の連携を明示化する
- フォローを「案件創出活動」として体系化する
これができれば、「ザ・モデル的な管理」を
製造業でも十分に活かせます。
🔷 まとめ:製造業にこそ「再定義されたザ・モデル」を
「ザ・モデル」は、確かにSaaSを前提にした仕組みです。
しかし、製造業においても
**「分業」ではなく「連携」**を意識した再設計をすれば有効に機能します。
- MQLなどの共通言語でマーケと営業をつなぐ
- 技術部門を巻き込んだ“案件化支援”を設計する
- 納入後のフォローを「カスタマーサクセス」として再定義する
製造業BtoBの世界では、「ザ・モデルをなぞる」のではなく、
“製造業版ザ・モデル”を自社の実態から描くことが重要です。
そのための第一歩は、
「マーケ・営業・技術の関係性を見える化すること」。
そこから、真に機能するBtoBマーケティングモデルが生まれていくはずです。





